令和二年の春、私どもは大阪の阪急百貨店で「美人画ルネサンス展」を開催した。大規模なこの企画では、現代の美人画が、どのように展開し、どのような画家がいるのか紹介すると共に、明治以来の美人画の歴史を同時に展示販売するという意欲的な取り組みを阪急の企画部と共に実行するもので、私達にとっても初めての試みであった。
開催の終盤はコロナ禍に巻き込まれて本来の爆発力を発揮できず断腸の思いであったが、大胆とも言えるこの展示は宣伝もままならない状況の中でも、多くの顧客を惹きつけた。
「ルネサンス」という言葉を体現するのに、蒼野甘夏の作品群ほどふさわしいものはないと思われた。実際、会場入り口の目立つ場所に、彼女の作品を並べたが、その気品といい、構想力の大きさといい、日本画そして美人画の面目躍如と言うべきもので、立ち会った誰もが納得する出来栄えであった。
日本というのは不思議な国で、驚くような新しい発想が飛び出す一方で、反対に小さなルールでガンジガラメにして物事を駄目にしていく面もある。自由なのに不自由だ。日本画も事情は同じで、明治に大きく花開き、大正で爛熟期を迎えたみずみずしい日本画というジャンルは、昭和の時代の権威づけが進むにつれて気づけば形骸化も進行してしまった。
甘夏はくたびれて色あせゆく日本画という花畑に、一匹の蝶のように現れた。
札幌に住む甘夏は日本画をインターネットで学んだという。余白を生かした構図や、少女や女性の奔放さから古事記まで無尽に描く我想の幅広さは、「伝統」に基づいているようで実は仲間内のルールに縛られて窮屈になった昨今の日本画から遠く離れて、古くは狩野派や琳派、近くは近代の歴史画などの題材も引き受けつつ、強く現代性を帯びる自由さを持つ。
一定の師匠を持たない、土地的にも中央から隔絶されたともいえる画家だからこそ、自由に日本文化の根っ子に触れながら作品を作れるのかもしれない。
2月は渋谷Bunkamuraの企画に、3月は有楽町で開かれるアートフェア東京の美人画展に、彼女の作品は登場する。彼女はきっと成長し続ける。その姿を見守っていただくと共に、応援していただきたい。(秋華洞 田中千秋)
Exhibition:
蒼野甘夏・友沢こたお 二人展「皮膚」[ 2021/09/24 – 2021/10/02 ]
SIX ARTISTS -夢の中の夢- @Bunkamura Gallery 2021年2月3日(水)〜14日(日)
ART FAIR TOKYO 2021 @東京国際フォーラム 2021年3月18日(木)〜21日(日)