作家に迫る(第四回) 中原亜梨沙|カタログ「秋華洞」2017年夏号

中原亜梨沙は、不思議な力を持っている。それは、見る力だ。
メデューサは、見た者を、石に変えてしまうという。彼女は逆だ。何かを見ると、彼女が石に変えられてしまう。
彼女は、見え過ぎてしまうのだ。だから、茄子を見るのも怖いという。
処女画集『ゆうなれば花』の中でも、小学校二年生の時に描いた自作の着せ替え人形について披露している。その精巧な人形の細かい描写にイラストレーターの中村佑介さんは驚く。普通の子供では見えないところまで見えているのだ。

「そこはかとなく」2017

その見え過ぎてしまう力を使って、作品はできる。そのせいか、彼女の絵には手跡がない。一般に、精密に見える絵画でも、絵肌に近づくと、その人の手の動き、いわゆる「タッチ」というものが見られるが、彼女の作品は、完璧に磨き上げられた陶器のように、人が作った手跡を残さない。それは直に絵を見ないとわからないことである。そこに新たな生命が生まれる。

「ひらいて、むすんで」2016

その絵は不思議な伝染力を持つ。
現在彼女はフローフシという化粧品メーカーとコラボしており、街角でそのイラストを活かした広告をよく見かける。彼女の「力」が、世の風景を変えていく様を見るのは楽しい。彼女の「顔」は時代の「顔」として、今後もっと広がっていくことだろう。(秋華洞 田中千秋)