作家に迫る(第十四回) ディー・チン(狄 青)|カタログ「秋華洞」2020年新春号

ディー・チン(狄 青/Di Qing)は、中国で生まれ、台湾を経て、日本に移り住んだ。中国圏の画家が私どもの所属になるのは、猫描きのチンペイイ(陳珮怡)に続いて二人目だ。

1986年に中国浙江省で生まれたディー・チンはまだ若いが、10年ほど前から発表をはじめ、すでに北京・台北では急速に有名になり人気が高い。大きなサイズの作品が多く、単価もかなりの金額だが、よく売れている。

自己主張の強い、強烈な表現が目立つ中国の現代アートシーンの中で生き残り、伸びてきた彼女の表現はしかし痛烈であるというより寧ろいつも穏やかである。そして絢爛で、深みがある。

ディー・チン(狄 青)「寻凉图 」2019

彼女は、控えめで、静かな女性である。その性格は日本人に近いようにさえ思える。だが、中国から出て日本に住むのは、あまり簡単なことではない。意思の強さを秘めている。

彼女の絵は読み取ろうと思っても読みきれない謎をいつも湛えている。過去と現在、古美術と現代美術が融合する世界は、おだやかに暗くて、湿潤で、温かい。欧米や日本、台湾、中国を旅してきた彼女が見つけてきたアジア的な「何か」が彼女の体温で温められて画面に定着している。一種のトランス状態に誘うかに見えるSF的で幽玄な世界の裏には、いったいどのような物語が隠されているのだろうか。

ディー・チン(狄 青)「浅涧喧聚图」2018

ご存知のように、中国社会で生きることは、昔も今も苛烈だ。ときに残酷でさえ有る。だが、人々の心は常に平穏と温もりを求めている。穏やかさへの希求は過去も現在も変わらないだろう。だから、中国では千年前に「南宋絵画」が生まれ、そこで知識階層は穏やかな理想の世界を求めた。彼女の絵画世界の穏やかさを想起すると、彼女は現代の南宋画を描いているのかもしれない。

ディー・チンは温かい場所を求めて移動し、ひとびとに東洋的温かみと、ユーモアを届ける。これからも彼女はひとを温め続けるのだろう。

国内での大々的な作品の発表はアートフェア東京2020が初となる。