2021年7月2日(金)より
昔話をテーマにした7名の作家によるグループ展「むかしむかし、あるところに…」がはじまります。
伝説の霊獣から、浦島太郎、番町皿屋敷、はたまたアンデルセンやグリム童話などをベースにそれぞれの作家が独自の表現を展開しています。
大人になった今、かつて親しんだ昔話はどのように表現されるのか、物語を思い浮かべながらご鑑賞ください。
殺害されたのではなく、自ら井戸に飛び込み死を選んだお菊。
皿屋敷伝説は全国に様々な派生がありますが、江戸版「番町皿屋敷」のお菊さんには強い意思を感じます。
周囲の毒念(悪意)によって命を落としたことには変わりありませんが、怨霊となったお菊自身も、毒念をもってその家に中指のない子が生まれるほどに祟るのです。でも十枚目のお皿があると聞くなり「嬉しや」とあっさり消えちゃうなんて可愛げもあって好きです。(岡本東子「毒念-番町皿屋敷より-」)
女は人間なのか、化け物なのか。
しばしば登場する女は、人間の感情そのものが生み出した産物なのでしょう。
鏡花の空想の中の、美しくもありもの恐ろしい女に魅入られます。(岡本東子「十三夜」)
「眼をひらけば冥茫模糊、薄みどり色の奇妙な明るさで、そうしてどこにも影がなく、ただ茫々 たるものである。」 これは、太宰治の「浦島さん」の一文。助けた亀に連れられた浦島太郎が、海中で眼を開けた 時に映る世界です。これをきっかけに、物語は昔話からSFに転じた気がしました。1枚は、この情景を小さな画面に閉じ込めようと思いました。もう1枚は、SFの続き。彼が目に した変化、そして去年を境に現代の我々が直面している変化。そんな「今」と「昔々」を繋ぎました。(柿沼宏樹「望郷」)
物語上の動物を立体作品にというコンセプトのもと制作したシリーズです。4大聖獣(鳳凰・龍・霊亀・麒麟)、中国においては瑞獣・四霊とも呼ばれる聖なる獣たちで、自然界や様々な概念の象徴として描かれています。鳳凰は天空を統べるものの象徴であり、優れた人物の出現とともに現れるとされる霊鳥です。様々な物語上における鳳凰の要素と現代的物質の要素を再構成し、立体作品にしました。(上根拓馬「四大聖獣 鳳凰」)
麒麟は天空を統べる鳳凰と対になることが多く、獣類を統べるものの象徴として描かれています。
虫や植物さえも踏むことがなく、一切の殺生をすることのない幻の動物とされています。
王が人々のためになる政治を行った時に出現するといわれていますが、はたして現代ではどうなのでしょうか。(上根拓馬「四大聖獣 麒麟」)
四大聖獣における龍とは中国神話上の帝王に直属するものという位置づけであり、皇帝そのものと言ってもいい存在なのかもしれません。
そこではまるで出世魚のように五百年ごとに成長していき(まむし→雨龍→成龍→角龍)その後、千年後に応龍(4大聖獣における龍)となるといわれています。
また、人間に力を貸したために神々の住む天に登れなくなったという言い伝えもあります。(上根拓馬「四大聖獣 龍」)
霊亀とは千年生き抜いた亀が、巨大な霊力を得て巨大化したものと言われています。
中国神話上では甲羅に不老不死となった仙人が住むとされる蓬莱山(ほうらいさん)を背負っているとされています。
日本では奈良時代に年号として使われた歴史がありました。(上根拓馬「四大聖獣 霊亀」)
ノルウェー民話太陽の東月の西を題材に作りました。とはいえ、私に大きなインスピレーションを与えたのはカイ・ニールセンによる挿絵です。人物の背筋から伸び上がるような木の描写から、眼前に見える世界が自分の内から湧き起こってくるものによって作られているように感じたのです。件の場面は物語の中盤、主人公が自らの過ちを自覚して悲嘆に泣き暮れるところ。しかしその憂き目がなければ後に展開するハッピーエンドを掴み取ることもできなかったでしょう。悲しみを抱える人は強く立ち上がります。(村上仁美「憂き目の花が咲き匂う」)
うさぎ穴に落ちていくアリスとお茶会のダブルイメージで制作したカップアンドソーサー です。
上半身は既に不思議の国の領域にあります。(村上仁美「Down Down Down」)
同じ土と水で育った姉妹は、血によって繋がれた絆とも同一人物の光と影・ペルソナなど様々な解釈ができます。私にとって興味深いモチーフです。
物語の中で鬼を助け、熊の王子と婚姻する姉妹は聖と俗を問わずその断絶を回復していく巫女の様にも思えます。(村上仁美「薔薇の姉妹」)
この作品は、中国の神話「西遊記」から着想を得ました。物語の主人公は孫悟空で、花果山というとても美しい場所に住んでいます。そしてそこにはたくさんの子猿がいます。
これは、子猿たちが温泉に入っている様子を描いたもので、とてもリラックスし、気持ちのいい場面です。この場面のインスピレーションは、日本の長野県にある地獄谷から得たものです。この温泉には、たくさんの猿が住んでいて、温泉に入る光景はとても興味深く忘れられないものでした。そこで私は、日本の地獄谷温泉と「西遊記」を結びつけ、新しい作品のシリーズを作りました。この小さな絵は、そのうちの一つです。(ディー・チン「Inside mountain」)
この作品は、「星の王子様」にインスパイアされたものです。
私が想像した「星の王子様」を描きました。
王子様はダイヤモンドがはめ込まれた金の王冠をかぶっていて、王冠の中には花が通っています。
キャラクターのイメージを重視したため、余分な部分を取り除いた非常にシンプルな作品になっています。
この個性的な王子様の姿を皆様に覚えていただければ幸いです。(ディー・チン「PRINCE」)
この作品は、縁結びの赤い糸を持っている河童は、美人と繋がりたいという求愛行為を表しています。
伝統的な美の観念の中で描かれた美人と、余りに人間くさく戯画化される河童という組合は、「美人と野獣」系の画題に自身の人間観を見せたいと考えています。(高資婷「河童の求愛」)
高資婷(こう・つてい)
1992年台湾台北生まれ。京都造形芸術大学大学院博士課程在学中。公益財団法人佐藤国際文化育英財団 第29期奨学生、公益財団法人日本文化藝術奨学金第24回奨学生。2019年新竹藝術博覧会
ART HSINCHU(晴山藝術中心/台湾新竹)ほか展示多数。19年京都造形芸術大学大学院修了展大学院賞。20年KYOTO ART FOR TOMORROW京都府新鋭選抜展毎日新聞社賞(京都文化博物館)、第29期奨学生美術展により作品買い上げ(佐藤美術館)
おやゆび姫をテーマに描きました。
醜いヒキガエルがおやゆび姫を息子の嫁にしようと連れ去る様子です。
大切に育てられてきたおやゆび姫が感じる外の世界での不安や恐れを表現しました。(加納萌子「お家へ」)
加納萌子(かのう・もえこ)
富山県生まれ。富山大学大学院芸術文化学研究科芸術文化学専攻修了。人との関わりの中、世の中の様々な事象に触れる中で、自身の内に発生する不安や恐れ、虚無感を人物の姿に託し表現する。18年個展『Respiration』(青井記念館美術館/富山)、富山大学芸術文化学部卒業制作展セレクション(富山県美術館/富山)、19年ビエンナーレTOYAMA 2019(富山県美術館/富山)、20年グループ展『こしの会』(銀座スルガ台画廊/東京)
exhibition: むかしむかし、あるところに…
2021年7月2日(金)~10(土)